Helsinki/Tallinn
Digital Identity
Tour 2018
来たるべきデータソサエティを
めぐる旅
2018.05.20 SUN - 05.27 SUN
来たるべきデータソサエティを
めぐる旅
2018.05.20 SUN - 05.27 SUN
いまなぜ、エストニアがこれほどまでに注目されているのか。
それは単に先進的なデジタルテクノロジーが行政から民間までのあらゆるレイヤーにおいて実装されているからではないし、それによってもたらされる「効率」や「利便性」に「未来」があるからでもない。
デジタルテクノロジーの本来のポテンシャルがラディカルに開拓されていくことで、これまでの社会を構成してきた枠組みが激しく変更を迫られ、巨大な問いがそこにおいて噴出しているからだ。国家とは何か、通貨とは何か、公共とは何か、国民とは何か、つまるところ、「私」とは何か。
エストニア最大のテックカンファレンス「Lattitude 59 2017」では、「デジタルアイデンティティ」ということばが議論のなかにおいて頻出した。個人情報保護をめぐってEUでGDPRが施行されるなど、デジタルテクノロジーとアイデンティティは、誰もが避けては通れない大きな問題となっている。そしてそれは、個人から家族、企業、コミュニティ、国家にいたるあらゆる社会組織のアイデンティティと絡み合っては錯綜する。
2017年にエストニアを訪ねた若林恵は、その様相をこうレポートしている。
エストニア政府が主導する先進的な「e-Goverment」というプログラムは、当然ながら、国民のすべてが、ある番号によってナンバリングされ、それをもって物理空間内におけるアイデンティティと、ヴァーチャル空間内におけるアイデンティティとが統一されることで実行が可能となる。ここで国民の「アイデンティティ」を保証しているのは、言うまでもなく、国家だ。
けれども、エストニア政府は、さらにここに「ヴァーチャル国民」という資格を導入し、外国籍であってもエストニア政府によるサーヴィスの一部を享受できる「e-residency」というプログラムを実行している。
EU圏内でビジネスをしたい人はこの仕組みを利用することで、エストニア政府の信任のもと、会社を設立したり、銀行口座を開設したりできるのだが、このプログラムの奇妙なところは、自分のアイデンティティを信任してもらうための「国家機関」を「自分で選択する」ことを大々的に許容してしまっている点だ。
そして、それを許容することとセットになる形で、エストニア政府は自らを、「国民を管理する主体」としてではなく、「さまざまな公的サーヴィスを提供する主体(それもサーヴィスを享受したいと思う人に対しては誰にでも開かれた主体)」として再定義している。「ガヴァメント・アズ・ア・サーヴィス」と、彼らは堂々謳う。
公的サーヴィスのこうしたオープン化は、それが徹底したシステム化・機械化・自動化によってこそ実現される、というのがエストニア政府の強固な信念だ。それは「政府」というものへの絶大な信頼の結果としてあるのではなく、むしろ徹底した「不信」に基盤をおくものであるように思える。
官僚機構というのは、そこに人が介在する限りにおいてどうしたって「コラプト=腐敗」するものであるという、おそらくはソヴィエト連邦時代に得たと思われる教訓こそが、「人を信頼せずとも『信頼』を担保することが可能なシステム」へと、彼らをドライブさせているように見える。政府の元CIOが、「AIを内閣に入れるべきだと思う」というとき、彼らの「信頼」がどこへ向けられているのかは明らかだ。そして、そうであるがゆえに、エストニアとブロックチェーンの相性の良さも明らかとなる。ブロックチェーンは「信頼のプロトコル」であると言われるが、そこで語られる「信頼」は、これまであらゆるトランザクションを仲介してきた「人」の不在化できることをもって価値としている点で、「不信のプロトコル」と言い換え可能なものであることを忘れてはいけない。
(「デジタルアイデンティティは誰が保証するのか」|若林恵『さよなら未来 エディターズ・クロニクル2010-2017』岩波書店所収)
エストニアはいわば「国家」というものをめぐる実験場となっている。エストニアのとある元政府高官は、「この先、国家ってどうなるんですか?」と問うと「さあ、わからない」と答える。そして「自分たちが行政レベルでやっていることがISと何が違うのか、と言われたら明確な答えを出すのは難しい」とさえ言ってのけるのだ。ラジカルなデジタル化が向かう先は、やっている当人たちもわかってはいない。
だから、エストニアに行ってもおそらく「答え」はない。問われることのなかった巨大な「問い」がそこでは口を開けて待っている。未来の先行きは、より一層不透明だ。霧のように立ち込めた深い問いの霧のなかへと足を踏み入れる覚悟はあるか。
2018年5月20日(日)
〜5月27日(日)
1,058,400円
燃油サーチャージ・航空保険料・空港諸税は含みません
同行しません。
現地係員およびANOTHER REAL WORLD TOUR事務局が同行します。
募集人員:20名
最少催行人員:15名
日本発着利用予定航空会社:フィンランド航空
利用予定ホテル:RADDISON Blu Royal(ヘルシンキ)、パークインバイラディソンメリトンタリン(タリン)
食事:朝食6回、昼食3回、夕食6回
CONFERENCE
1,500人を超えるイノベーターとアントレプレナーが集まるエストニア最大のスタートアップの祭典です。世界中から参加者が集い、世界最先端のテーマを扱うスピーチに注目が集まります。今年はGDPRやMyDataに関連し、IoTやブロックチェーンの時代における「アイデンティティ」を巡る政府や企業の動向が注目されています。
STARTUP
企業へデータセキュリティに関するソリューションを提供するガードタイムは、エストニアの行政サービスを電子化する中核プラットフォーム「X-Road」の開発や運用を行っていることで知られています。これからのIoTや行政プラットフォームの基盤となるブロックチェーン技術を開発し、世界各国と取引を増やしています。
STARTUP
Funderbeamは、スタートアップの情報を顕在化させ、ブロックチェーンを使った信頼性の高いネットワークとシステムをベースに、グローバルな投資のプラットフォームをつくりました。VCでなくともアーリーステージのスタートアップに投資できるようになることが話題を呼び、2017年に孫泰蔵氏が出資したことでも注目されました。
WORKSHOP
e-Residencyというシステムが普及しているエストニアでは、IDカードを発行すれば国外の人間でもオンライン上で口座の開設や企業の設立が可能です。本ツアーでは、e-Residencyを実演形式で体験します。また、希望者は日本で事前にIDカードの発行を行えば自身の口座・企業設立を行うこともできます。
EVENT
日本に興味を示すエストニアの企業とのネットワーキングイベントを開催いたします。ローカルなスタートアップと交流し、親交を深めていく絶好の機会となるに違いありません。なかには日本での知名度がまだまだ低い注目の企業もあり、単に名刺交換を行うのではなく、議論を交わしながら新たなビジネスをつくり出していく場を設けます。
WORKSHOP
ツアー期間中の5月25日(金)に適用開始が決まっている「GDPR」(一般データ保護法)。インターネットのあり方が変わるGDPR以降の世界で、わたしたちの個人情報はどう扱われるのか。IoTやブロックチェーンなどさまざまなテクノロジーによって変容する「デジタルアイデンティティ」の現在を考えるワークショップを開催します。
各プログラムの内容は変更される可能性がございます。
2018年5月20日(日)
〜5月27日(日)
成田発・ヘルシンキ着(AY074)|専用車にてホテルへ|夜、市内レストランにて夕食
食事:朝×/昼×/夕◯
ホテルにて朝食|スタートアップ、関連施設視察|移動途中、レストランにて昼食|スタートアップ、関連施設視察|夜、市内レストランにて夕食|ミートアップイベント
食事:朝◯/昼◯/夕◯
ホテルにて朝食|7:30〜9:30ヘルシンキ→タリンへ船で移動|10:30〜E-Residency Demonstration|移動途中、レストランにて昼食|スタートアップ、関連施設視察|夜、市内レストランにて夕食|ミートアップイベント
食事:朝◯/昼◯/夕◯
ホテルにて朝食|MyDATAワークショップの開催|レストランにて昼食|スタートアップ、関連施設視察|夜、市内レストランにて夕食
食事:朝◯/昼◯/夕◯
ホテルにて朝食|専用車にて会場へ|Latitude59視察|夜、市内レストランにて夕食
食事:朝◯/昼×/夕◯
ホテルにて朝食|専用車にて会場へ|Latitude59視察|夜、市内レストランにて夕食
食事:朝◯×/昼×/夕◯
タリン発|専用車にて空港へ|12:50タリン発・13:20ヘルシンキ着(AY1016)|17:15ヘルシンキ発(AY073)
食事:朝◯/昼×/夕×
8:55成田着(AY073)|通関後、解散
食事:朝×/昼×/夕×
ツアーに参加される方は、5月8日(火)の事前勉強会と、6月19日(火)の事後報告会にもご参加いただきます。
太平の眠りを覚ますエストニア。辺境の国と思いきや、世界有数のIT立国戦略で驀進中!国が小さい、国民は少ない、資源がない、隣国に蹂躙された歴史がある。そんな逆境をものともせず、国家自身がスタートアップ精神を発揮している今をその目で見届けよ!
東浦亮典|東京急行電鉄株式会社
エストニアはいずれ来たるわたしたちの未来を実現しています。この国を見ていると、小さな国としてのあり方、戦い方、覚悟を感じるとともに、数学者や技術者への尊敬が感じられます。今後もエストニアの挑戦から目が離せません。
篠田佳奈|株式会社BLUE
上記は2017年にエストニアを訪れた方々のコメントであり、本ツアーの内容を保証するものではございません。
2018年4月11日(水)
2018年3月30日(金)
お申し込み受付は終了しました
※2018年3月30日にツアー催行可否を決定いたします。催行決定後にお申込金のご請求書を発行いたします。
住み慣れた街から船出をし、いくつもの海を渡ってたどり着いた、とある街。すべてが活気に満ちて見るもの何もかもが新鮮で目新しい。知らない街はなんと楽しいことか。そう思ってしばらく過ごしたところで、ふいに気がつく。そこは自分が住み慣れたロンドンの街だったのだ。そんなエピソードを英国の作家G・K・チェスタトンは紹介している。
ブライアン・イーノの名盤「Another Green World」もまた同じモチーフが下敷きになっている。地球を遠く離れて宇宙を旅した男が、とある緑の惑星にたどり着いたら、そこが旅だった地球だったという物語が、そのインスピレーションになったと言われている。
旅は、いったいなにを見出す行為なのだろうか。未知なる場所を訪ね、新しい事物や暮らしをみて感じる。それは旅の半分でしかない。残りの半分は、むしろ帰ってきてからのことだ。自分がそれまで当たり前だと思っていたこと、ありきたりだと感じられていたことを、まったく違った視点やコンテクストにおいて捉え直すことができるようになること。ふるさとをまるで異国のように見つめ直すことができるようになること。
世界の先進的な都市を訪ね、これから人の暮らしが一体どのように変わっていくのかを探る旅のプログラム「Another Real World」は、先進都市にただ学び、それを真似するための「ネタ」を探すためのものではない。むしろ、自分たちの世界のそれとは異なる「リアル」を体感することで、自分たちが生きている「リアル」を再発見するためのものだ。いまとは違う、オルタナティブな社会や暮らしのあり方を再想像するためのきっかけなのだ。
若林恵(blkswn publishers)
1971年生まれ。編集者、Blkswn代表。ロンドン、ニューヨークで幼少期を過ごす。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業後、平凡社入社『月刊太陽』編集部所属。2000年、フリー編集者として独立。以後,雑誌,書籍、展覧会の図録などの編集を多数手がける。音楽ジャーナリストとしても活動。2012年に『WIRED』日本版編集長就任、2017年退任。2018年、黒鳥社(blkswn publishers)設立。
1979年エストニア生まれ。エストニアの経済通信省にて経済開発部の局次長などを歴任し、エストニア情報社会のための新たな戦略と政策の設計を担当。その後、コンサルティング会社ESTASIA、日本のクラフトビールを欧州へ輸入するBIIRUを設立。近年ではエストニア電子政府で活用されているセキュリティ技術を提供するPlanetway Corporationの取締役に就任。日本・エストニア間ビジネスの拡大を進めている。
1980年生まれ。2009年電通入社。コミュニケーション・デザイン・センターを経て、現在BD&A局に所属。英国のイノベーション・リサーチ企業「Stylus Media Group」の日本におけるチーフ・アドバイザーとして、企業のブランド開発やイノベーション・プロジェクトに多数参画。2013年、自著『SHARED VISION』(宣伝会議)を出版。
イギリス、スコットランドにて大学を卒業後、グローバルデジタルマーケティングカンファレンス、ad;tech/iMedia Summitを主催しているdmg::events Japanに入社。2015年にmash-inc.を設立し女性のWELL-BEINGを軸としたサービス展開を手掛けながら、ジェンダーや働き方の問題など、まわりにある見えない障壁を多彩なセッションやワークショップを通じて解き明かす「MASHING UP」をプロデュース。
ANOTHER REAL WORLD TOUR事務局 info@anotherrealworld.com